オガサワラヨシノボリが遂に新種記載されました!

オガサワラヨシノボリは、小笠原だけに生息する固有淡水魚。
写真のように愉快な顔をしたハゼの仲間。
島ではおなじみで、川の生き物の代表選手です。
ところがこの魚、実は分類学的には種として認められていなかったのです…。

「ヨシノボリ」と呼ばれていたハゼの1種は、ヒレや体の模様、卵の大きさ、生態の違いなどによって、実は何種類もが混在した種群であることがわかってきました。
1992年に小笠原に訪れた魚類学者の鈴木寿之氏は、島に生息するヨシノボリが、それまで内地で見つかっていたヨシノボリの型とは異なることを見いだし、オガサワラヨシノボリと名付けました。
しかし、1種として扱われてきたヨシノボリ類の分類学的な整理は時間を要し、約20年間、オガサワラヨシノボリも暫定的な型(Bonin Island Type)として存在し続けてきたのです。

そして昨年12月31日、遂に他のヨシノボリ類とは異なる新種であることが学術誌に発表され、学名決定の運びとなりました。
以下の英語論文です。

Suzuki, T., Chen, I-S. and Senou, H. (2011) A new species of Rhinogobius Gill, 1895 (Teleostei: Gobiidae) from the Bonin Islands, Japan. Journal of Marine Science and Technology 19(6): 693-701.

学名は、Rhinogobius ogasawaraensis となりました。
日本魚類学会のホームページには、日本産魚類の追加種リストというページがあります。
今日現在、オガサワラヨシノボリは一番上、新種ホヤホヤですね。

サンゴ調査で夏を締めくくる

小笠原の夏は長い…。
10月に入っても依然として最高気温は30℃前後。
11月でもオガサワラゼミは鳴き止まず、永遠に夏が続くのでは?と心配になるくらい。

アイボの調査仕事にも季節があり、夏は活発にフィールドに出るシーズン。
夏に予定していた調査が完了すると、夏が終わったと宣言できます。
言い換えれば、夏調査を終えない限り夏が続き、怖ろしいことになるのです。
私の場合はサンゴの調査が終わると一安心。
今年は海況に恵まれ、10月中に夏を終えることが出来ました。

アイボでは父島周辺の造礁サンゴの調査を毎年行っています。
島のマリンガイドの草分け、KAIZINSea-Tacと調査チームを組み、2004年から数えて今年で8年目になります。

この調査、モニタリングサイト1000という環境省の全国調査の一環です。
国内のサンゴの生育する海域で同じ方法を用い、サンゴが海底に占める割合や白化率などの変動を調べるのです。
昨年の調査結果の速報はこちら

そして、今シーズンの父島の造礁サンゴの状況ですが、概ね良好でした。
今年は海水温が低く、白化被害が生じることはありませんでした。


父島釣浜のアザミサンゴ群落
アザミサンゴは小笠原海域を代表するサンゴの1種。
大きな群体を各海岸で見ることができます。
学名はGalaxea fascicularis
ギャラクシー…、命名した研究者はこのサンゴに銀河のイメージを重ねたのでしょうか?
兄島瀬戸の深場へと広がる釣浜のアザミサンゴ群落。
サンゴを構成する小さなポリプをひとつの星だとするなら…。
それらが無数に集まって、まるで銀河の様ですね。


アザミサンゴのポリプの集まり
ポリプは小さなイソギンチャクの様なカタチをしています。
くすんだピンク色の触手を伸ばし、潮の流れに揺られてユラユラと。

取水堰のオガサワラヌマエビ ーその2ー

アイボは、東京都と建設会社の担当の方々と相談しました。
そして、なるべく多くのエビが失われぬよう、作戦をたてました。
1.土砂を排除する水域の上流側に土囊で堰を設け、それより上を保存水域に。
2.工事前にできるだけ多くのエビを捕獲。
3.捕獲したエビを保存水域に移動。
4.一部のエビは、川岸に設置したコンテナで飼育し、リスクを分散する。
5.工事作業が終了したら、土囊堰を外し、4のエビを放流する。

7月5日の朝、作戦行動スタート。
東京都の担当の方、建設会社の方々、近隣農家のご夫妻、アイボの総勢12名。
皆さん童心にかえり、金魚ネットに集中します。
一時間ほどで、約1500匹ものオガサワラヌマエビを確保しました。
改めてこの水系のオガサワラヌマエビの豊富さに驚きます。
人が利用する優良な水源は、水生生物にとっても重要な水域なのです。





今回は、アイボが持ち込んだ面倒な緊急対応策に、関係者の方々は快く応えてくれました。
エビ捕りを手伝ってくださった農家のご夫妻も、この小さな生き物に対して優しい目を向けてくださいました。
今、島を襲っている干魃は農家にとっては死活問題となり、『生活vs自然』という図式になりかねない状況です。
小さなエビを気にかける余裕は、ふつうならば無いかもしれません。
この様な状況で、いかに人間生活と自然保護を両立できるのか、その技術が小笠原では求められています。
低コストに迅速に、保全策を打つ知恵と経験が必要です。
アイボでは、事前に計測したエビの生息密度が工事後ではどの位変化が生じたか、今後調査に入ります。
今回の取り組みはアイボにとって、重要なケーススタディーとなりました。

取水堰のオガサワラヌマエビ ーその1ー 

小笠原は31年振りの大渇水です。
今日のダムの貯水率は40%ちょっと。
このままでは8月末から9月上旬に、ダムの水が無くなる恐れがあるそうです。
パッションフルーツの皮がしおれて出荷できないなど、すでに農業被害も出ています。


父島の沢の上流に、農業用水の小さな取水堰があります。
今月に入って、この取水堰に堆積した土砂を取り除く作業が行われました。
ところがこの取水堰周辺には、オガサワラヌマエビという固有の川エビが生息しています。

成長しても2cm程度にしかならない、小さ〜いオガサワラヌマエビ。
しかし、世界の海洋島の川エビの中で、唯一の河川陸封型という珍しいエビなのです。
(子供が海に降らず、川の中だけで一生を過ごすタイプ)
珍しい生物につきものですが、絶滅危惧種でもあります。
取水堰の土砂を排除するには、一度水を抜かなければなりません。
そのまま水を抜けば、たくさんのエビが死んでしまいます。
同時に、種内の遺伝的多様性が減少し、生き残ったオガサワラヌマエビの絶滅確率が上がります。

(つづく)

アイボのField Note はじめます

アイボは小笠原諸島父島にある小さな研究所です。
小笠原自然文化研究所という名称で、英名がInstitute of BONINOLOGY。
島ではイニシャルをとってIBO→アイボと呼ばれています。
BONINOLOGYは、小笠原の植物学者である清水先生による造語で、『小笠原学』を意味します。

アイボは小笠原の野生動物の調査研究を主な活動としています。
このブログでは、調査現場で遭遇する様々な出来事を記録・発信してゆきたいと思います。
勝手がわからないため、今しばらくはお見苦しい点があるかと思いますが、よろしくお願いします。